インボイス制度関する税制改正案について

インボイス制度関する税制改正案について

昨年12月公表された令和5年度税制改正大綱に、インボイス制度対応への緩和措置があります。

なお、記事の内容は税制改正大綱に基づくものですので、最終的に法令化される際に変更される可能性がありますのでご注意下さい。

 

(1)適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置

新たに課税事業者になった免税事業者の消費税負担を売上税額の2割を限度にするという改正案です。

免税事業者がインボイス制度を機会に課税事業者となる際の一番の懸念事項は、「消費税の納税負担が生じる」ということだと思われます。

本改正により、3年間の期間限定とはなりますが、納税額を「売上に係る消費税額の2割」とすることで、税負担の軽減が図られることになります。

〇適用期間

2023年(令和5年)10月1日から2026年(令和8年)9月30日までの日の属する各課税期間において適用されます。3年間の期間限定措置となります。

〇対象者

・インボイスの発行事業者として登録した免税事業者

・課税事業者選択届出書を提出したことで、消費税を納めることを選んだ免税事業者

※インボイス制度開始の従前から課税事業者を選択していた小規模事業者は対象外

※課税期間の短縮を行っている場合には対象外

〇必要手続

事前の届出等は不要です。2割特例を受ける場合には確定申告書にその旨を記載します。

〇税務上の留意点

・基準期間(法人であれば2期前、個人であれば2年前)の課税売上高が1000万円以下であるインボイス登録事業者が対象になりますので、基準期間の売上が1,000万円超となる場合には本特例の適用は不可となります。

・卸売業(第1種事業:みなし仕入率90%)以外の業種の事業者については、2割特例を選択することが有利と考えられます。(簡易課税制度におけるみなし仕入率との関係)

・通常の消費税計算(本則課税又は簡易課税)と、この2割特例の有利な方を申告する際に選択することが出来ますので、納税者にとって有利です。

・消費税の計算方法として、本則課税・簡易課税・2割特例の3種類が存在することになりますので、どの計算方法を採用するのか、判断を行う必要が生じます。

 

(2)中小事業者等に対する事務負担の軽減措置

小規模事業者が行う、支払対価が税込1万円未満の少額取引については、インボイスの保存が無くても帳簿記載があれば仕入税額控除を認めるというものです。

インボイス制度下における仕入税額控除には、原則インボイスの保存が必須となっています。

しかしながら少額の振込手数料や、クレジットカードを用いたガソリン代・ETC利用料など、小規模事業に対してすべてのインボイス保存を求めることは事務的な負担が大きく、制度運用に支障を与えるとの配慮から本改正案が浮上しました。

〇対象者

・基準期間(法人であれば2期前、個人であれば2年前)における課税売上高が1億円以下の事業者

・特定期間(法人であれば前期、個人であれば前年の開始の日以後6か月の期間)における課税売上高が5,000万円以下の事業

〇対象となる取引

課税仕入れに係る支払対価の額(税込価額)が1万円未満の取引

〇適用期間

2023年(令和5年)10月1日から2029年(令和11年)9月30日までに行われる課税仕入れについて

〇必要手続き

インボイスの保存をしない税込1万円未満取引について、帳簿に一定事項の記載を行う

〇税務上の留意点

・本制度の対象にならない売上1億円を超の事業者については、1万円未満の少額取引であってもインボイスの保存及び記載要件充足の確認等が必要になりますので、変更はありません。

・該当する場合、6年間はインボイスがなくても1万円未満については仕入税額控除できるというものです。1万円未満ですので、備消品の購入や、社員の立替金精算が主な対象となります。特に社員個人のクレジットカードでの立替金精算については、インボイスが不要となりますので、一定の事務手続きの軽減になります。

 

(3)少額な返還インボイスの交付義務の見直し

税込1万円未満の返品等については、返還インボイスを発行(保存)しなくてもよいとされたものです。

これまでのインボイス制度では、買手が売手に対して代金を振り込む際に、振込手数料を差し引いた場合、「値引き」として売手側が返還インボイスを交付するという何とも煩雑な運用を行うことが想定されていました。

今回の改正は、振込手数料に関する実務の煩雑さを解消するためのものであると考えられます。

〇対象となる取引

売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である取引
(返品・値引き・割戻しによる、課税資産の譲渡等の税込価額の全部若しくは一部の返還又は売掛金その他の債権の額の全部若しくは一部の減額)

〇適用開始時期

2023年(令和5年)10月1日以後に行う課税資産の譲渡等に係る対価返還が対象となります。

〇税務上の留意点

・差し引かれた振込手数料に関して、「売上値引き」として処理し、その返還インボイスを不要とするものであることから、振込手数料について仕入税額控除を行うというものではなく、売上に係る対価の返還として課税売上のマイナスとして処理する必要があると考えます。

 

(4)適格請求書等保存方式に係る登録申請手続の柔軟化及び登録手続の見直し

➀令和5年10月1日から登録を受ける場合の手続きの緩和

令和5年10月1日よりインボイス登録事業者になる場合、原則令和5年3月31日までに登録申請が必要でした。それ以降登録を受ける場合には、「困難な事情」を記載して申請することが必要でしたが、この記載が不要となりました。

よって令和5年9月30日までの申請については、自動的に制度開始日の令和5年10月1日を登録開始日として登録されることになります。

ただし、登録番号が発行されて手元に届くには一定の時間を要します。

現時点では、e-Taxで3週間、書面では1ヶ月半かかると言われています。申請する場合は、余裕をもって対応すべきでしょう。

➁適格請求書発行事業者の登録の期限の見直し

課税期間の初日からインボイス発行事業者として登録を受けようとする場合、課税期間の初日から起算して15日前の日(改正前:課税期間の初日の前日から起算して1月前の日)までに登録申請書を提出すればよいことになりました。

➂課税期間の中途から登録を受ける場合(経過措置)の見直し

令和5年10月1日後に適格請求書発行事業者の登録を受けようとする免税事業者は、登録希望日の15日前までに申請書を提出していれば、登録希望日において登録がされたものとみなされます。

④適格請求書発行事業者の登録の取消し期限の見直し

インボイス発行事業者登録の取り消しを求める場合、取り消しを受けようとする翌課税期間の初日から15日前の日(改正前:その提出があった課税期間の末日から起算して30日前の日の前日)までに届出書を提出することになりました。

 

最後に

今回の税制改正では、インボイスに関する大きな改正が盛りだくさんとなっていました。多くの会社にとって一安心なのは、1万円未満の適格返還請求書が不要となった点ではないでしょうか。振込料を売上値引き処理することで適格返還請求書の交付が不要となる為、事務処理が簡素化できます(改正前が現実的ではなかったように思います)。

この税制改正案も踏まえて、インボイス登録の有無、経理事務の運用方法等検討していきましょう。

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