【社会福祉法人】社会福祉法人の合併・M&Aの注意点

社会福祉法人の合併・M&Aの注意点

以前より、社会福祉法人の合併などの手続きが増えてきているという話をさせて頂きました。

 

弊社及び監査法人でもかなり数が増えてきているように感じます。

実際私自身、合併・事業承継に携わるのは、来年4/1実施予定を含めて3件目となります。

今回は、合併時に注意しなければならない論点として、対価の支払いについて記載したいと思います。

 

社会福祉法人の前提

(役員等又は評議員の社会福祉法人に対する損害賠償責任)
第45条の20 理事、監事若しくは会計監査人(以下この款において「役員等」という。)又は評議員は、その任務を怠ったときは、社会福祉法人に対し、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。

となっており、基本的に損害が生じた際には賠償責任を負うこととなっています。

 

また、刑事罰も問われるようになっており、現に、贈収賄を禁じる規定が新設された2016年の法改正以降、同規定を適用しての逮捕される事例が出ていることもニュースになっています。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021022501064&g=soc

 

つまり、対価を払って、会社を買いとる(乗っ取る)ことはできないように設計されています。

 

このような事象が生じるのは、社会福祉法人という持分のない法人特有の内容ではないでしょうか?

つまり、分かりやすくいうと、株主がいない(出資した人がいない)という組織形態だからこそ生じる内容です。

 

通常の株式会社の場合

通常の株式会社などでいえば、株主がいて、取締役社長がいて、株主総会で文句を言われるというニュースを見たことがあると思います。

それは、法律の設計上、

株主が出資者としてお金を出し、社長はそのお金を使ってビジネスをしてお金を増やし、

その一部を配当として株主に還元するという形になっているからこそこのようなやり取りが起きます。

また、株主総会は出資した金額に応じて議決権を保有するため、

もし自分の納得いかない方向に進んでいるのであれば、株式を譲渡して株主をやめることができます。

M&Aなどでいえば、この株を売って、事業を引き渡すことができ、株主は現金を受け取ることができます。

 

ビジネスをしている社長が一番偉いわけではなく、お金を出した株主こそ一番偉いというわけです。

多くの小規模法人でいえば、株主=社長となっており、結果として同じ人になっているケースがほとんどです。

 

一方、社会福祉法人の場合

一方社会福祉法人でいえば、理事長(社長)はいますが、そのお金を出してくれた人がいません。

社会福祉法の改正により、理事で構成される理事会を選任する機関として評議員会が設計されましたので、

実質的に株主的な権限を持っているのですが、お金を出したわけではなく、

制度として理事の選任機関そして最高権限機関として作られただけです。

(理事と評議員は兼務できません。)

そのため、M&Aでいえば、お金を払う株主は存在せず、

決議だけの承認が取れれば、タダで社会福祉法人を手に入れることができてしまいます。

 

問題点

しかし、逆に言うと、これまで数十年にわたり社会福祉法人を経営してきた理事長が退任するにあたって、

第三者に社会福祉法人を引き継ぐときには、その功績を株の買い取り対価として渡すことができません。

多くの社会福祉法人の経営者は本当に福祉の心を持っており、

お金ではなく地域のためや誰かのために事業を実施していることがほとんどです。

しかし、その反面、土地や建物、お金などを社会福祉法人に多額に寄付しているケースもよくあります。

 

皆さんであれば、どうでしょうか?

おじいちゃんが保育園を作るために、実家の土地の一部を社会福祉法人に寄附して保育園をスタートしたが、

おじいちゃんが退任するとその土地は自分たちのものではなくなり、お金も一円ももらえないとしたら。。。

不動産会社に買ってもらえればお金がもらえたのに、社会福祉法人に寄附したらお金がもらえない。。。

保育園は続けてほしいけど、お金まで全くいらないといったつもりではなかった。と思いませんか?

 

私の個人的な感想はそういった気持ちです。

本当に寄付して使ってもらえればいいと思って寄附されたと思いますが、子供孫まで同じ気持ちとは限りませんよね。

 

役員退職金の活用

社会福祉法人において、事業を外部の人に承継する場合にはこういった問題が発生します。

唯一会社からお金をもらうことができる方法は、役員退職金として受け取る方法です。

役員退職金については、規程を整備しておく必要があり、その規程に則り、支払いをすることができます。

多くの法人では、

最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率(1~3倍)

などとしていることが多いのではないでしょうか?

一般的な税務の世界でも同様の考え方をとることが多いので、この計算はよくわかるのですが、

問題となるのは、理事長が毎月ほとんど報酬をもらっていないケースがたくさんあることです。

 

例えば、

30年事業をやっていたとして、

月額報酬50万の場合→1,500万~4,500万

月額報酬10万の場合→300万~900万

となります。

極端に言うと、月額10万しかもらっていないと、900万程度しか退職金をもらうことができなくなってしまいます。

 

土地を寄付して私財を投じて運営してきたのに、法人を手放す時に900万しかもらえないとなると

残される家族が困ってしまうというケースもあり得ます。

 

多額にお金を引き出せるようにしましょう。と言いたいのではなく、

せめてご家族が困らなくていいように事業の引継ぎに関しては、細心の注意を払っていただきたいと思います。

社会貢献もとても大切なことですし、同じようにご家族も大切な存在だと思います。

 

規程の整備や退職金の原資など準備するものも出てきますので、お気軽にご相談ください。

 

 

 

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